毎年お盆を過ぎるころから四万十川では大雨のたびに上流から太いウナギが汽水域に下ってきます。
汽水域とは、淡水と海水が混じりあう場所の事。四万十川は広大な汽水域を持っており、海から10キロほど上流の区間がそれにあたります。
日本には数ある大河、がありますが、そのほとんどが途中に大都市圏を挟んでおり、汽水域、いわゆる川の最下流部というのは大なり小なり汚染されていると考えていいです。
とても潜ったり泳いだり、そこの魚を川の水で洗って刺身で食べたり、などとは無縁の流域になります。
最後の清流の双璧と言われている岐阜県の長良川だって、汽水域は中京大都市圏。河口部はタンカーなどの大型船舶がひしめきあい、コンビナートになっています。
しかし、この四万十川はまだ素晴らしい汽水域を持っています。
途中に大都市圏がない事、人口が少ない事、周りの森林が豊富であること、などなど。
流路100キロメートルを超える川で本流にダムがない河は日本ではもう四万十川だけ。
流路200キロメートル近い大河で、最下流の海の端っこで潜って遊んだりその場で魚をさばいて食べれたり、冬には川で洗ったすじ青のりを天日干ししてそのまま食品にすることが出来たり、
と、そんな健全な汽水域を持った大河はもう日本には四万十川しかないのです。
天然うなぎは清流域の物が素晴らしいですが、本来は汽水域の物が脂の乗りも最高で、昔は河口部の物が珍重されていたと聞きます。
しかし、下流域は水が汚い。ヘドロがたまっていることが多く、泥臭かったり化学物質のように匂いのするウナギが多いのも事実です。やはり水が奇麗なのと、水に沢山の養分がないといけないんだと思います。
ずっと昔、鰻というのは渓流のようなところのよりも、泥底の方がうまいものだとされていたのです。ただし、泥が汚染されておらずきれいな泥でないといけないのです。ヘドロではだめなのです。そんな川はもう少ないのです。
岡山の児島湾でとれる青うなぎ、シャコうなぎ、などはその汽水域、海水域の脂の乗りが良いうなぎを指しており、下流部のウナギが良いものであるということを物語っていますね。
四万十川の、今ではもうここにしかない大河の澄み切った健全な汽水域でとれる天然ウナギは、他のどの地域の物よりも汚染に触れていません。
200キロ近くをとうとうとゆっくり流れてくる四万十川の水、これがウナギには素晴らしい水なのです。養分豊かでヘドロも一切ない川なのです。
そしてこの美しい汽水域で育った、もしくは留まっていたウナギたちが時期よって上流に上ったり下ったりをするのですから四万十川の天然うなぎは最高なのです。まさに日本一の天然ウナギであります。
秋に大雨のたびに汽水域に下ってくるウナギをここらではクダリ、と呼びます。婚姻色なのか、黄色かった天然ウナギの体色が銀色に変わってきます。
目が口先の方に寄って、胸鰭が黒くなり、とんがって伸びたりしてきます。胴体にはリンズ模様というのが浮かび上がり、それはアルミホイルをくしゃくしゃにしたような模様なのですが、そうなるともう、脂の乗り、旨味、香りと、ただでさえ味の濃い四万十川の天然ウナギがもっともっと全てにおいて濃い味になって想像を絶する旨味になってくるのです。
これ以上のウナギは、養殖、天然を含めて無いだろうと思いますよ。何しろ本当に凄い!
漁師はあの手、この手でそれらを待ち受けて捕まえますが、それは本当に楽なことではありません。イシグロ、という川底に穴を掘り、石をつみあげるだけの単純な仕掛けもたくさん造りますが、それを作るのだって本当に大変な作業ですし、ウナギ筒(ころばし)で捕まえるのだって秋はコロバシに仕込む餌をとるのにも何日も費やすことがある位、、、
それに、秋の台風は水が大きいことが常で、仕掛けがダメになったり仕掛けられなかったりは日常茶飯事。 天候、自然条件に恵まれたときにのみ獲れるという難しい事でもあるのです。
高知県は10月からウナギが禁漁になります。お盆過ぎから九月いっぱいの間だけ味わえる究極の天然鰻 四万十川の川筋ですらなかなか味わえない超貴重な味覚。
自分もこのウナギは本当に価値の分かる料理人の方にしかお分けしたくありません。そういう方が調理した四万十川の天然うなぎ 特に下りうなぎは本当に別格ですよ!
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